2009年8月13日木曜日

夏休みの思い出



夏ですね。

この季節になると思い出す、夏休みのある出来事をお話ししましょう。


あれは小学五年生の夏休み。
宿題のひとつに工作があったんですね。
テーマは「貯金箱」。
子どもならではの天真爛漫な発想で、
おもしろい貯金箱を作っちゃおうってわけです。

そこでぼくが考えたのは「ロボット型貯金箱」。
お金を入れるとその重みで腕が「ぴょん」と動くのです。

どうですか!
なんとも子どもらしいピュアなアイディアじゃないですか。
製作も滞りなく終わり、なかなかいいものが出来たと思っていたのです。

そして長い夏休みもあと数日で終わりというある晴れた午後、
友達の鈴木君(仮名)がウチに遊びにやってきたのです。

「そういえばさ、工作の貯金箱作った?」

鈴木君は訊きました。
ぼくは自信満々に見せてあげたのです。

彼はぼくが作ったロボット型貯金箱にコインを入れて
「ぴょん」という動きを見てたいそう感激していました。

「おもしろいね、これ。」






そしていよいよ二学期も始まりです。
登校すると、みんな自分の貯金箱を手にして見せ合っていました。
それぞれのアイディアで、それぞれ個性的な作品がそろっています。
でもぼくは心の中でこっそりこう思っていました。

「うん。ぼくのがいちばんいいな。」

そのとき矢沢君(仮名)がこう言いました。

「鈴木君のやつがすごくおもしろいよ」

みんなそうだそうだと賛同しました。

「鈴木君もう一度見せてよ」

みんなみせてみせてと口を揃えました。

そして彼はランドセルの中からおもむろに貯金箱を取り出したのです。




それはお金を入れると腕が「ぴょん」と動くロボット型貯金箱でした。

おんなじじゃん…。
ただひとつ違うのはお金を入れると腕と一緒に顔も揺れることでした。
ぼくは「鈴木君、真似したの?」って言いました。
「違うよ、だってぼくのは顔も動くもん」


ぼくは自分のロボット型貯金箱を出すのが嫌になりました。
どっちが真似したとか、そんな話になるのが嫌だったからです。
怒りはありませんでした。悔しさもありませんでした。
言ってくれれば他のを作ったのに…。
ぼくは、ぼくは少しだけ寂しく思いました。

結局ぼくはロボット型貯金箱を出さずに作り直すことに決めました。
今思えば「創作者としてのプライド」だったのだと思います。
どっちが先とかは関係なく、
同じような作品が同じ時期に発表されるのが許せなかったのです。



その後もぼくらは変わること無く親友でした。
今でもたまに会うと彼はぼくのことを羨ましいと言います。
「おまえはいいよな。なんか才能あって。
 ギターとか弾くし作曲とかするし…。
 おれなんかなんの才能もないよ。」

そんな彼も今では一児の父親です。



あれからたくさんの夏が過ぎて行った。
いつの時代も夏は、少年を少しだけ成長させるのだ。


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